Dominique Nachi

ノルウェーの秋

僕の中にいる小さな男と女




最近、急に冷え込んできた。寒いのなんて大丈夫だと言っていたけど、あっけなく敗北、死ぬほど寒い。心配した同僚からもらったダウンジャケットと、安っぽい防寒帽子で身を包んだ僕は、ジャパニーズ忍者になって、オスロの家から外に出た。目の前には黄金の木々が道を彩っており、季節は今が秋だったと気づかされた。

秋は寒暖差の激しい過渡期でありながら、自然がもっとも熟し甘い香りのする季節でもある。そんな秋は、僕の中にいる、太陽の下に生まれた夏男と、吹雪の中に舞う冬女が同時に存在する季節でもあった。

人生は成長だ。男は鉄とトレーニングを愛している。太陽のエネルギーを備えたこの小さな戦士が、毎日、何を達成したのかを僕に報告する。彼はもやもやとした感情を明確化し、重要なことを抽象化してくれる。こうして勉学、スポーツ、実践行動、1つ、1つ、毎日蓄えていった技術(あるいは思考)は、データ化され、蓄積されていく。これはポジティブシンキングでもある。どんなつらいことがあっても、この男脳の達成感(明確化し目に見えるもの)があれば、世に振り回されることはない。なぜなら外の世界は自分には関係ない(fine)だからだ。毎日は、地道な努力と結晶化の繰り返しで、おのずと人は成長していっている。

男は内向きな生き物だといえよう。そんな職人的な男の日々のトレーニングを外向きにヴィジュアル化し表現してくれるのが、僕の中にいるもう一人の女だ。エレガントに舞うこの踊り子は、蓄積した1つ1つのデータを3つくらいにつなげ、表現する。それは生け花に似ている。一つ一つの花を、バランスよく盛って、美しく魅せる。そうすると人はそれぞれの花の関係性を直感し、そのバランスを素晴らしいと感じる。そしてまた別の品を3皿、タイミングよくお披露目することで、常に飽きさせない演技を彼女は知っている。それが僕のパフォーマンスであり表舞台であった。

心理学者のDaniel Kahnemanによると、人は記憶自己(remembering self)と経験自己(experiencing self)を内に秘めているという。秋の幸福とは、この記憶する内側の思考(thoughts)と、経験する外向きの実践(action)が、上手く連絡をとり合って、甘い果実が実ったときではないだろうか。

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© 2020 Dominique Nachi

テーマの著者 Anders Norén